抜け毛予防と薄毛予防はこんなに違う

2026年2月
  • 血行不良説を鵜呑みにしてはいけない医学的な理由

    AGA

    「頭皮が硬いからハゲる」「血行が悪いと髪が抜ける」。これらは薄毛に関する最もポピュラーな通説の一つであり、多くの人がこれを信じて頭皮マッサージや血行促進剤の使用に励んでいます。確かに、髪の毛は血液から栄養を受け取って成長するため、血流が良いに越したことはありません。しかし、医学的な視点からAGAの病態生理を深く掘り下げると、「血行不良がAGAの主原因である」という説には大きな疑問符がつきます。実際には、血行不良は原因ではなく、むしろ「結果」として生じている側面が強いのではないかという見方さえあるのです。まず冷静に考えてみてください。もし血行不良が主原因であれば、頭皮の血流が悪い人は側頭部や後頭部も含めて均一にハゲるはずです。しかし、AGAの特徴的な進行パターンは、生え際や頭頂部だけが薄くなり、側頭部や後頭部の髪はフサフサのまま残るというものです。解剖学的に見て、前頭部と側頭部でそこまで劇的に血流に差があるわけではありません。この局所的な脱毛現象を説明できるのは、血流ではなく、やはり前頭部や頭頂部に多く分布するアンドロゲンレセプターと5αリダクターゼによるホルモンの影響だけなのです。ホルモンの影響を受けない後頭部の髪は、血流がどうあれAGAでは抜け落ちません。これが、血行不良説が根本原因たり得ない最大の根拠です。では、なぜミノキシジルのような血管拡張作用のある薬が発毛に効くのでしょうか。これは、血流を良くすることで「無理やり栄養を送り込み、細胞を活性化させる」という対症療法的なアプローチだからです。ミノキシジルは確かに発毛を促しますが、AGAの進行(抜け毛の指令)そのものを止めるわけではありません。そのため、ミノキシジル単体で使用しても、生えてくるそばからDHTに攻撃されて抜けてしまうというイタチごっこになりがちです。また、最近の研究では、AGAが進行して毛包がミニチュア化すると、その周囲の毛細血管網も退化して減少することが分かっています。つまり、ハゲたから(毛包が小さくなったから)血管が減ったのであり、血管が減ったからハゲたわけではないという因果関係の逆転も示唆されています。このことを理解せずに、「血行さえ良くすれば治る」と信じてマッサージだけに頼るのは危険です。それは、火事が起きている(ホルモンによる炎症が起きている)のに、消火活動をせずに肥料を撒いているようなものです。正しい順序は、まずフィナステリドなどで火を消し(原因の遮断)、その上でミノキシジルやマッサージなどで栄養を補給する(血行促進)ことです。血行不良説を完全に否定するわけではありませんが、それを主原因だと過大評価してしまうと、本質的な治療の機会を逃してしまいます。AGA治療においては、常に科学的なエビデンスに基づき、優先順位を見誤らないことが大切です。