ある日、ふと鏡を見て「あれ、生え際が昔より上がっている気がする」と気づいた時の衝撃は、言葉にできないものがあります。認めたくない気持ちと、このまま禿げ上がってしまうのかという恐怖。しかし、ここで立ち止まってはいけません。AGA(男性型脱毛症)は進行性の疾患であり、気づいたその瞬間が、残りの人生で一番髪が多い時なのです。対策を先送りにすればするほど、取り戻すためのコストと時間は増大します。生え際の後退に気づいた今こそが、治療のベストタイミングです。ここでは、具体的にどのようなアクションを起こすべきか、その手順を解説します。まず最初に行うべきは、生活習慣の見直し……と言いたいところですが、実は違います。最も優先すべきは、専門クリニックでの診断です。なぜなら、生え際の後退が本当にAGAによるものなのか、それともストレスによる一時的なものや、円形脱毛症の一種、あるいは牽引性脱毛症(髪を強く結ぶなどで起こる脱毛)なのかを確定させる必要があるからです。自己診断で市販の育毛トニックを使い始めたり、高価なシャンプーに変えたりする人が多いですが、もし原因がAGAであれば、それらの対策はほとんど無意味です。AGAは体内のホルモンバランスに起因するため、表面的なケアでは進行を止められないからです。まずはプロの目で診断を受け、自分の敵が何なのかをはっきりさせましょう。診断の結果、AGAであると判明した場合、医学的に推奨される対策は「内服薬による治療」一択です。基本となるのは、フィナステリドやデュタステリドといった「守り」の薬です。これらは抜け毛の原因となる悪玉ホルモン(DHT)の生成を抑え、進行を食い止める役割を果たします。生え際の後退が初期段階であれば、この薬を飲むだけで進行が止まり、ヘアサイクルが正常化して髪が太く戻ることも十分に期待できます。さらに積極的に発毛を促したい場合は、ミノキシジルという「攻め」の薬(内服または外用)を併用します。生え際は血管が少なく薬の効果が出にくい部位とも言われますが、早期であればあるほど、毛根が死滅していないため回復の可能性は高まります。並行して、生活習慣の改善も行いましょう。薬の効果を最大限に引き出すための土台作りです。特に重要なのは睡眠です。髪の成長ホルモンは睡眠中に分泌されるため、質の高い睡眠を確保することは必須です。また、食事では髪の原料となるタンパク質(ケラチン)や、その合成を助ける亜鉛、ビタミン類を意識的に摂取してください。そして、意外と見落としがちなのが「前髪への物理的刺激」を避けることです。気にして触りすぎたり、帽子で長時間蒸れさせたり、整髪料を頭皮に付着させたりすることは、弱っている生え際に追い打ちをかける行為です。頭皮環境を清潔に保ち、優しく扱うことを心がけてください。対策を始めるにあたって、金銭的な不安があるかもしれません。しかし、最近ではジェネリック医薬品の普及により、月々数千円から治療を始められるようになっています。
生え際の後退に気づいた時にすぐ始めるべき具体的対策