今思えば、私は完全に情報の迷路に迷い込んでいました。20代後半から気になり始めた生え際の後退。焦った私が最初に飛びついたのは、「毛穴の詰まりが薄毛の原因」という説でした。テレビCMや雑誌の広告で見る、毛穴から角栓がスポッと抜ける映像や、脂ぎった頭皮の拡大写真はあまりにも説得力があり、私の薄毛もきっと不潔さが原因なのだと信じ込んでしまったのです。それからの私は、まるで何かに取り憑かれたように頭皮ケアに没頭しました。洗浄力が高いと謳われる高価なスカルプシャンプーを買い込み、毎晩ブラシを使って頭皮をゴシゴシと擦り、毛穴の奥の汚れまでかき出そうと躍起になっていました。「これで毛穴が呼吸できるようになれば、髪は復活するはずだ」と。しかし、現実は残酷でした。どれだけ丁寧に洗っても、どれだけ頭皮を清潔に保っても、抜け毛は減るどころか増える一方でした。むしろ、洗浄力の強すぎるシャンプーと過度な摩擦によって頭皮は乾燥し、防衛反応で過剰に皮脂が分泌されるという悪循環に陥っていたのです。赤く炎症を起こした頭皮を見てもなお、「まだケアが足りないのかもしれない」と自分を追い込んでいました。今考えれば、方向違いの努力を全力で続けていたわけですが、当時の私は「AGAは病気であり、ホルモンが原因」という事実を受け入れるのが怖かったのかもしれません。自分の努力でなんとかなる衛生問題だと思いたかったのです。転機は、あまりの変化のなさに絶望し、意を決してAGA専門クリニックの無料カウンセリングを受けたことでした。マイクロスコープで頭皮を見てもらうと、医師は意外なことを言いました。「頭皮はとても綺麗ですね。毛穴の詰まりもありません」。そして続けて、「あなたの薄毛の原因は汚れではなく、AGAによるヘアサイクルの乱れです。これは内部のホルモンの問題なので、洗うだけでは治りません」と、医学的なメカニズムを淡々と、しかし分かりやすく説明してくれたのです。その瞬間、私の数年間の努力がガラガラと音を立てて崩れ去ると同時に、深い納得感が押し寄せました。なぜ結果が出なかったのか、その答えがようやく見つかったのです。そこから私は、自己流の過剰なケアを一切やめ、医師に処方された内服薬による治療に切り替えました。シャンプーも頭皮に優しいアミノ酸系に変え、優しく洗うだけに留めました。するとどうでしょう。あんなに必死に洗っていた頃には生えなかった産毛が、治療開始から半年ほどで確実に生え際に戻ってきたのです。毛穴の汚れ説が完全に間違いだとは言いませんが、AGAという強大な敵の前では、それはあまりにも些細な要因に過ぎません。もし今、私と同じように「洗えば生える」と信じて浴室で格闘している人がいるなら、勇気を持ってそのブラシを置いてほしい。原因を正しく知ることこそが、解決への最短ルートなのです。私の遠回りが、誰かの近道になることを願ってやみません。
毛穴の汚れが原因だと信じてケアを続けた私の失敗談