あれは治療を開始してから二年が経過した頃のことでした。鏡に映る自分の髪は、かつての薄さを微塵も感じさせないほど豊かに復活していました。毎朝のセットも楽しく、久しぶりに会った友人からは「若返ったな」と驚かれるほど。私は完全に勝利を確信していました。「もうこれだけ生えたんだから、薬なんて飲まなくても大丈夫だろう」。そんな慢心が心の中に芽生えたのです。毎月一万円以上かかる治療費も馬鹿にならないし、薬を飲む面倒くささからも解放されたい。そんな軽い気持ちで、私は医師に相談することなく、ある日ぷっつりと薬の服用をやめてしまいました。それが悪夢の始まりだとも知らずに。最初の数ヶ月は特に変化を感じませんでした。「ほら見ろ、やっぱりもう治っていたんだ」と自分の判断が正しかったことを誇らしくさえ思いました。しかし、中断から半年ほど経った頃でしょうか。朝、枕元に落ちている抜け毛の数が明らかに増えていることに気づきました。最初は季節の変わり目のせいだろうと高をくくっていましたが、シャンプーをするたびに手に絡みつく大量の髪の毛を見て、徐々に背筋が凍るような不安に襲われ始めました。それでも、「一時的なものだ」「まだこれだけ残っているから大丈夫」と現実逃避を続けました。しかし、AGAの進行は待ってはくれませんでした。一度堰を切ったように始まった脱毛は、治療を始める前よりも遥かに速いスピードで進行していったのです。医学的に言えば、これは薬によって抑え込まれていたヘアサイクルの短縮が一気に再開されたことによるリバウンド現象でした。薬で無理やり成長期を維持していた髪たちが、薬の効果が切れたことによって一斉に休止期に入り、抜け落ちていったのです。一年も経たないうちに、私の頭髪は治療開始前の状態、いや、それ以上に薄くなってしまいました。せっかく二年かけて積み上げてきた努力と時間とお金が、ほんの一時の油断ですべて水の泡となってしまったのです。鏡を見るのが怖くなり、再び帽子が手放せなくなる日々。後悔してもあとの祭りでした。慌ててクリニックに駆け込み、治療を再開したいと懇願しましたが、医師からは厳しい現実を告げられました。「一度失った髪をもう一度生やすには、最初以上の時間と労力がかかります。また同じように生える保証もありません」。その言葉は重く響きました。結局、私は再びゼロから、いやマイナスからのスタートを切ることになりました。この経験から私が学んだことは一つだけです。AGA治療における「やめどき」を自己判断で決めては絶対にいけないということです。もしやめたいと思うなら、あるいは減らしたいと思うなら、必ず専門家の指導のもとで計画的に行わなければなりません。私のようにならないためにも、今治療が順調にいっている人こそ、その状態が薬によって支えられている砂上の楼閣であることを忘れないでほしいのです。維持することの価値は、失って初めて痛感するものですから。